003:Ayumi Koizumi HONE代表:桜井貴斗さん(以下:桜井) SELECT EYE COMPANY代表:鈴木功始(以下:鈴木) Le SEC director:小泉あゆみ(以下:小泉) 鈴木: 彼女は大学在学中から、研修生(インターン生)としてうちのお店でイベントをしていました。 桜井: えっ?大学生からですか!? 鈴木: ちょうど、うちが洋服だけではなくて味や音など五感に関することをやり始めたタイミングでした。彼女はもともと大学卒業後に音楽教師になろうとしていたのですが、なぜかうちに入ってきました。木製の楽器のような音を出すスピーカーがあり、当時うちはそのスピーカーの代理店でした。このスピーカーを使って、演奏家がいない音楽会を企画した際に楽曲のチョイスや構成を作ってもらいました。 小泉: 今思うと恐ろしいですよね、よく任せてもらえたなと思います(笑)。でもそれがすごく楽しかったです。実際にイベントを企画したことで、洋服屋さんだけじゃない会社ということを理解できました。ただ販売するのは嫌だなと思っていたので、いろいろなことができるんだとワクワクしました。 原因は「自分」にある 桜井: 大学時代にどういう経緯でセレクトアイさんと出会ったんですか? 小泉: しごとのかんづめの説明会です。内定後に研修生として勉強させてもらいました。 桜井: 就職活動時にアパレル業界は選択肢に入っていたんですか? 小泉: 当時の私はふわふわしていたんです(笑)。誰かのために、とかあまり考えていなくて、だから教員もなぁと思っていました。そんな感じでグダグダしていたら大学3年の3月になって、焦って就活を始めました。両親や親戚が教師だったので、進路は教員しか考えたことがなかったんです。でも一歩外に出てみると、自分ができることがいっぱいあることに気がつきました。「自分が楽しめることならなんでもいい」と思っていろいろなところを受けた中の一つがセレクトアイでした。洋服に惹かれたというよりは、働いている人が楽しそうにしていたことと、社長が話していることにピンときたことから、ここなら楽しく働けるかもしれないと感じました。 桜井: 楽しさがポイントだったんですね。 小泉: そうですね。母親は教師に向いている人で、寝ずに資料を作ったり知育の絵本を作ったりしていて、「疲れた」と口では言うけど楽しそうだったんです。そんな姿を見ていて、仕事をするなら没頭できるものがいいと思っていました。 桜井: 企画やイベントはもともとお好きだったんですか? 小泉: 今思えば、好きだったと思います。中・高で吹奏楽をやっていて、高校では全部自分達で運営していました。演奏会だったら、会場のアポイントをとって、広告料を地域の企業からもらって、音響さんや照明さんに全部説明して・・・という風に演奏会を作って、それがすごい楽しかったんです。 桜井: 実際にキャリアの中で自分の価値観は変わってきましたか? 小泉: この4〜5年でものすごく変わったと思います。4年目で店長になったのですが、当時はマーケティングも、お店を運営することも、後輩を育てることも、正直よくわかっていませんでした。後輩とうまくいかなかったり、お店に人が来なかったりを目の当たりにして、何がダメなんだろう?と自分を見つめざるを得ない状況に直面しました。 鈴木: この仕事は、自分を見つめることで変わります。我々の仕事はクライアントがいる訳でもなく、机の上で仕事をする訳でもありません。一期一会のお客さまが何万円もするものを買ってくれるのは、言葉のテクニックではないんです。お客さまが「この人なら買ってもいいと」思う信頼を作らないとファンは増えません。他店や同期がどんどん成績を伸ばしている中、自分がうまくいかないとき、もしかしたら原因は商品や場所ではなく自分じゃないか?と気づくことでお店が変わっていきます。みんなそれに気づくのに何年もかかっているんです。 桜井: 矢面に立つことでわかるんですね。 鈴木: そうそう。だから心が弱い人や目的がない人は心が折れてしまいます。名刺を交換して机で話せる商談だったら挽回ができますが、私たちの仕事の場合はお店を出て行ってしまうので挽回ができません。 小泉: 商品がいらないからお店を出て行ってしまうので、なかなか自分に原因があると気づけません。思い返すと、「あっ」と気づくことができるようになったとき、自分の癖などいろいろ考えさせられます。 鈴木: 我々のお店に来るお客さまは、何が欲しいかを決めてお店に来ていません。「何かいいものある?」みたいな。そのため、こちらも心の準備をしっかりしていなければ、お客さまは商品を買ってくれないんです。仲間はできているのに自分ができないと、自分の何がダメなんだろうと気づくことができます。 桜井: 自責にならざるを得ないんですね。その心の切り替えはすぐにできたんですか? 小泉: 5年前くらいにヨガの初心者コースを持たせてもらったことがきっかけで、できるようになりました。 より自分を磨く 鈴木: ヨガの初心者コースの先生を任せました。彼女は楽しいことが好きだし、他者の目があることで自分を見つめられる人なので、僕がどうこう言うよりもその場に立たせちゃった方がいいなと思ったんです。ヨガの先生になるならば、ヨガができなければならないので、真剣にヨガをやりました。今までお店で洋服を介する経験ではなく、自分を磨かないといけない経験です。 小泉: これがターニングポイントになりました。自分がやらなきゃいけないと言う窮地に追い込まれて、ヨガのことを腑に落ちるまで理解しました。 鈴木: 彼女はなんでも器用にできますが、それだけではお店はできません。ヨガも同じで、人に教えようと思うと即席のできている風ではダメですよね。彼女の場合は、自分で自分の必要なものを築いていった感じです。 桜井: すぐに学ばなきゃと思ってヨガの準備をされたんですか? 小泉: そうですね。めっちゃ緊張しましたけどね(笑)。 桜井: そうだったんですね。人前に出るのは得意だったんですか? 小泉: とても緊張してしまうので、得意だとは思っていませんでした。音楽をやっているときも、みんなで前に出るのは大丈夫なんですが、ソロやピアノの発表会は死ぬほど緊張して3%くらいしか実力を発揮できませんでした。大学の試験のときも、指が震えすぎて途中で演奏が止まっちゃったんです(笑)。 桜井: 今はもうそこまで緊張しなくなりましたか? 小泉: そうですね。学校に出かけて学生と話したり、オンライン会社説明会を50回以上やったりなど、お客さま以外の人と話す経験をたくさん積みました。 鈴木: 今は百戦錬磨じゃない?(笑) 桜井: 今はポジション的には教えることの方が多いんですか? 鈴木: うちの場合は、座学のように教える訳ではなく、後ろ姿で学んでもらうスタイルなんです。特に本社はイレギュラーな形で、小泉さんよりも歳上の人が部下になって一緒に仕事をしているので、教えると言っても言葉を選ぶ必要があります。その配慮を学んでいる最中です。彼女は器用なタイプなので、歳下の子に教えることはできてしまいます。なのでかえってこの状況が彼女に必要だと思いました。自分に必要なことを学ぶ機会が全て彼女に起こっているので、彼女はすごいラッキーな人なんです。 桜井: 場数を踏む中で弱みが強みに変わっていたんですね。 鈴木: 僕は彼女に何かを教えたことはないんです。気づかせる、もしくはそう言う環境を与えていく、そうすると自分で勝手に学んでいくんです。 桜井: それは鈴木さんの教育方針なんですか? 鈴木: それに近いですね。もちろん一人一人違いますよ。手取り足取り教えなければならない人もいるだろうし、地頭が良い人は自分で考えて切り開くだろうし。守られた組織で成功するよりも、人生の中で必要なことをどうやって身につけていくかが大事なので、その訓練を意識しています。チームをまとめ上げて結果まで出さなければならない仕事なので、言葉で「次はやります」が通用しない仕事なんですよね。結果に出てしまうので。 小泉: 化けの皮はすぐ剥がれます(笑)。 セレクトアイ=「憩いの人がいる場所」 鈴木: コロナをきっかけに、どうしたらお客さまに買ってもらえるのか、お店でお客さまを待っているだけの仕事でいいのかという想いから、インスタライブを始めました。まさに誤魔化せないリアルな不特定多数の人に晒されたことで、彼女の持っていたタレント性が活きてきました。今まではお店でお客さまを待つ仕事から、自分達からお客さまのところへ飛び込んでいくことができるようになりました。インスタライブを始めて2年経ちますが、仕入れや予算、人員配置や働き方含めてただ待っている仕事から作り上げる仕事に組み立てているところです。インスタライブの段階で80%買うことを決めてらっしゃるので、もうライバーですよね。この2年いろいろなチャレンジをしましたが、わかりやすく結果が出たのは小泉さんのインスタライブかな。あと、他社とのコラボで、花屋さんとのコラボをしました。それに伴い、リース作りやお正月のしめ縄作りのイベントを企画し、うちのお客さまでもあり、花屋さんのファンでもある人たちが集まるようになりました。 桜井: ライフスタイルという意味では洋服と花は近いですよね。 鈴木: 洋服を買って終わりではなく、その後ろに見えている生活がたくさんあるので、それが形になったのがこのイベントかなと思います。 桜井: 既存のお客さまがご参加いただく感じなんですか? 小泉: それもあるし、通りがかりの方がイベントに参加してくださる方もいますね。花がきっかけで話す人が増えました。すごく前からセレクトアイに来てらっしゃるんですが、そんなに繋がっていなかった人とも話すようになりました。 桜井: ライフスタイルがわかると人となりがわかりますよね。お洋服選びにも活きることがありそうですね。 鈴木: 洋服はあくまで人との関わりの中のツールの一部であって、洋服じゃなくてもお客さまとの関係性を作れれば何でもいいんです。 桜井: 自分のことを知って欲しいけど、自分から語り出すのは遠慮しちゃう人はいますよね。そういう機会があると自然と自分のことを話せるので、自分のことを知ってくれてる人がいるというのはお客さまにとってすごく嬉しいと思います。 鈴木: ネットでの買い物が便利になりましたが、本当にそれが人と人との関わりになるのかというと違うと思います。お店に人がいて、その人と関わりがあって、自分では選ばないようなものとの出会いもある、それがお店だと思います。コロナでお店の意味、お店に人がいる意味をすごく考えたし、明確になった部分もありました。 桜井: そのお店の価値とはどんなものなんですか? 鈴木: 人との関わりだと思います。人がいないと、普段着ない物をおすすめされて、着てみたらよかったみたいな出会いは生まれないと思います。そして、そこにいる人間はものを売りたい人間じゃダメなんです。この人なら信用できるなというのは人間じゃないとダメですよね。だからセールスの仕事はどれだけネットが発達しても無くならないと思います。 小泉: 今尚更それが濃くなっている感じはします。この人が言っているから信頼できるかもしれないみたいな。 桜井: いろんなリサーチでも「友人の紹介で買う」が一番多いですもんね。 鈴木: だとしたら友人になればいいじゃないですか。ものを買いに来ているというよりは相談とか雑談をしに来ている感じだよね。 小泉: それを楽しみに来てくださっている感じがしますね。「コロナでテレワークになって誰とも話さずに終わってしまう1日だったけど、セレクトアイに行けば知ってる人と話せる、セレクトアイがサードプレイスになってたからすごくよかった」と言ってくれたお客さまもいます。 桜井: その人にとって憩いの場になってるんですね。 鈴木: 憩いの人がいるって感じだよね。 桜井: 小泉さんがお客さまを理解するために意識していることや工夫していることはあるんですか? 小泉: 自分を作ったり誇張したりしないようにしています。素のままの自分の言葉だったり、自分が感じることを話したり。ありのままの方がお客さまも素を出してくれるようになったなと思います。 桜井: 本日はありがとうございました!