004:Konomi Hirai HONE代表:桜井貴斗さん(以下:桜井) SELECT EYE COMPANY代表:鈴木功始(以下:鈴木) Margaret Howell stylist:平井好実(以下:平井) 鈴木: 「自社で発行するフリーペーパー作成の中心人物が欲しい」と思って彼女を採用しました。うちの場合は、想いが湧き出るフリーペーパーを作るために、最初は店頭で言葉の裏を読む洞察力をつける訓練をするんです。平井さん自身が入社当初にやりたいことと全く違うことをする葛藤があって、なんだかんだ7年目になりましたね。 もともと接客は得意ではなかった 桜井: もともと、学生時代のアルバイトで接客の仕事をした経験はあったのでしょうか? 平井: アパレルではなかったのですが、カフェとスーパーで接客の経験をしていました。 桜井: 接客に関してはどんな印象でしたか? 平井: どちらかというと得意ではなくて、「これができないあれもできない」と修行のような気持ちで入りました。でも、できないことをできるようになりたいという想いがあったんです。 桜井: そうなんですね。1年目のことは覚えていますか? 平井: とにかくがむしゃらでしたね。知らない人と一から関係を築いていくので、相手に踏み込むことや、その結果様々な反応をされることが怖かったんです。自分の意見を伝えることに抵抗があり苦手でした。周りがどう思っているのかを気にしてしまい、自分から何かを発することができなかったんです。でも、セレクトに入ったからには改善したい!という想いがあったので、1年目は毎日先輩方の姿を見て自分のお客さまが1人でも増えるよう向き合いました。 鈴木: 性格もあるかもしれないけれど、彼女は小学校から高校まで剣道をやっていたので、多くは語らないみたいな精神があるのかもしれないね。 平井: ずっと忍耐だったんですよね(笑) 桜井: 剣道を始めたきっかけはなんだったんですか? 平井: 父がやっていたというのと、友達がちょうど一緒に始めたので、成り行きで始めました。 桜井: そうだったんですね!でも10年以上続けることって凄いことですよね。やめようと思ったことはなかったんですか? 平井: もしかすると改善していく過程を楽しんでいたのかもしれません。チーム全体で目標を達成しようとしているときに、みんなで試行錯誤しているのが楽しくて続けられたんだと思います。 桜井: 剣道と接客で共通するところってあるんですか? 平井: 自己コントロールが大切なところですかね。「自分のメンタルを保つ」というのは接客にもつながっていると思います。私は元々メンタルがすごく弱くて、お客さまの多様な反応に都度浮き沈みしてしまっていたんです。思い込みが激しかったので、勝手に負のループに陥ってしまっていました。何かあると引きずってしまっていたのですが、お客さまには関係のないことだと割り切ってから、少しずつ切り替えることができるようになってきました。 コロナ禍で感じた「自分は何もしていない」焦り 桜井: 切り替えが得意ではなかったんですね。どのようにしてコントロールできるようになってきたんですか? 平井: 「自己コントロール」の意味が少しずつわかるようになってきました。ただ自己コントロールをしなさいと言われているときは、字面の意味はわかっても、自分の中にまで落とし込むことができなかったんです。でも接客を通していろいろなお客さまと関わっていく中で、「自分を律する」ということに気づくことができました。 桜井: 何かきっかけがあったんですか? 鈴木: 後輩を持ったのは大きいんじゃないかな。 平井: そうですね。色んなタイプの後輩が入ってきて、自分が出す波動が相手に及ぼす影響を理解しました。例えば相手が反発してきたときに、私も同じように反発してしまったら何も解決しませんからね。 桜井: 平井さんは後輩に怒ったり、感情を出すことはあるんですか? 平井: あんまりないと思います。もちろん、感情が出てしまうときもあると思うんですが、後輩には「仕事を楽しんでほしい」という想いが強いので、様々な考え方がある中で、一方的に自分の意見を押し付けるのは良くないと思っています。どうしたらお互いが分かり合えるのかを考えるので、怒ることはあまりないです。 鈴木: 入社したときから、「怒ったことある?」ってよく聞いてたよね。そしたら「あまりないです」って。怒ったことがないって僕は信じられなくて、怒りのエネルギーはどこに行っちゃうんだろうと不思議でした。とにかく最初は「思ったことをそのままストレートに出して」とずっと言っていました。 桜井: 現在の性格は学生時代からですか? 平井: そうですね。言うこともあるんですけど、基本的には相手の反応を見てから言うことが多いですね。 桜井: 最近、感情が出たことはありましたか? 平井: 春先に社長とお話していたとき、「感情をストレートに言うことが合言葉」と言ってくださいました。自分の中で抱えている気持ちを言えていなかった部分が多かったので、ここ最近になってやりたいことを話せるようになったんです。というのも、コロナになって焦ったんですよ、「自分、何もできていない」って。ここ1〜2年、社長が「やりたいことがあるならやってみれば」とずっと言ってくださっていて、この環境で何ができるのか、どう役に立てるのかを考えてちゃんと言わなくちゃと思ったんです。自分が思っていることを言わない限りこのままだと感じました。 桜井: どうしてそういう気持ちになったんですか? 平井: 対面の仕事がメインなので、コロナによってお客さまの入店が少なくなりました。でもその状況をすぐに変えることができません。その中で、自分たちはそのままでいるのか、何ができるのかを考えたときに、自分は何もしていないという焦りに変わったんです。 桜井: このまま受け身のままでいいのか?と考えるようになったんですね。やりたいことを口に出すことへの抵抗感はまだありますか? 平井: 抵抗感はないですね。社長や先輩たちが応援してくださる環境を信じられるようになったのが大きいと思います。7年経ってようやく気づいたんですが、この会社は絶対に応援してくれるというベースがあるので、言ってみようと思いました。 「平井このみ」らしさを表現していきたい 桜井: 平井さんが今挑戦したいことはありますか? 平井: 今はDen billに多くのお客さまをお呼びしたいです。Den billって静岡にはあまりない環境で、ちょっと東京っぽい落ち着いた大人の空間じゃないですか。そんな場所にたくさんの方が集まってほしいです。またお洋服以外にもお客さまの日々の生活に寄り添う提案をしたいと思っています。より暮らしが豊かになるようなライフスタイル全体の提案までできたらいいなぁと思っています。そして、お客さまにとってDen billがあってよかったなと思ってもらえるような、ここに来ることが目的になるような場所にしていきたいです。 桜井: そういう人たちにもっと来てほしいんですね。平井さんが、大切にしている価値観や指針になっているものはありますか? 平井: おばあちゃんになっても自分がやりたいことや目標を持っていたいと思っています。常にギラギラして燃えていたいんです(笑)。セレクトで働くみんながよく言うように、ワクワクしていたいですし、さらに周りの人から必要とされる人になりたいと思っています。素敵なお客さまや仲間から学ぶ部分がたくさんあるので、人と関わることでずっと自分を磨いていきたいと思っています。自分磨きには終わりがないので、常に磨いて改善し続けます。 鈴木: 結局、洋服が似合うか似合わないか、好きか嫌いかよりも平井さんの言葉を信じるか信じないかなんですよね。「あなたがいうならそれにするわ」って。ある意味、ファンビジネスに近いんです。接客というよりも平井このみのファンを作っていく仕事をしているので、彼女自身がチャレンジしていたり磨き続けていたりしないとファンはできません。関わる人を増やしていき、自分の言葉でその人たちのためにどんなアドバイスをしたらいいのかを考えると、洋服だけじゃなくて生活全般まで広がっていきます。「モノがいいから」だけならECで十分なんですが、わざわざ店に会いに来てくださるのは、平井このみのおすすめを聞きたかったり、どういう言葉をかけてもらえるかを楽しみにして来ています。それが日常的に行われているので、自分の気分を出してはいけません。そのため、自己コントロールや自分を磨くことが当たり前になっていきます。 平井: ただの販売員じゃなくて平井このみとして必要とされたいという想いがあって、そんな人間になるために修行をして磨いています。なので接客だと考えたことがないかもしれません。 桜井: お客さまと自然と話す中でそれが接客になっているんですね。今後磨いていきたい価値観や考え方はありますか? 平井: 今まではテンションや元気など”若い”で通用する部分があったんですが、人として深みのある接客や時間を作っていきたいと思っています。様々なライフスタイルのお客さまがいらっしゃるので、どうやったら満足してくださるのかを考えていかないといけないですし、そのために知識をもっとつけないと。そしてセレクトがやってきたことを発信して繋がっていかないといけないなと思っています。 桜井: お客さまの理解が大事なんですね。 平井: 私は人が好きで、お客さまがどういう生活をしているのかが気になります。人によって生活スタイルや言葉、考え方が違うのが楽しいんです。人見知りの人を攻略できたときや、強気な人の優しい表情を見たときに、「違う一面を引き出せた!」と思います。信頼してくれたから見せてくれたのかなと感じますし、人の繋がりが深くなっていく瞬間が自分にも繋がっているという感じですね。 桜井: 自分に預けてくれる部分が増えることがやりがいになっているんですね。。 鈴木: 本人は遅いというけれど、人の成長なんてそんなもんだと思う、実は。企業やいろいろなもののスピードの方が早くて実は人間が追いついていないだけで、平井さんくらいの気づきが普通だと思います。今の時代は世の中自体が5年も6年も待てないスピードになっていて、人間と社会の間のギャップが生まれてきて、結果人が苦しくなってきています。でも逆に求めなかったら、環境さえあればその人のペースで勝手に成長していくんだよね。